12.7. 安全性と倫理的問題
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初期の頃には、危険な病原性生物を新たに作り出してしまう可能性に関心が集中 このような懸念に取り組むために科学者が作成した遺伝子組換え体の取り扱いマニュアルは、多数の国々で、政府による法規制へと発展していった 安全性確保の方策
研究者を遺伝子操作された微生物への感染から保護するとともに、偶発的に遺伝子組換え体の微生物が実験室から放出されるのを防ぐ 組換えDNA実験に用いる微生物として、遺伝的な弱点をもつため実験室の外では生き延びていけないことが確実な菌株だけを使用すること
明らかに危険性が高い実験を禁止すること
現代では、一般市民の関心の中心は遺伝子組み換えされた微生物ではなく遺伝的に改変されたGM作物に写っている 遺伝子組換え作物をめぐる論争
遺伝子組換え作物の安全性を巡る論争は、重要な政治問題にもなっている
欧州連合では新たな遺伝子組換え作物の作物の導入が停止され、すべての遺伝子組換え食材の輸入禁止措置が検討されている
米国などの国々では遺伝子組換え作物による革命が欧州よりも静かに進行しており、遺伝子組換え食品の表示義務化が議論されているが、現在のところ法制化されていない
日本では2001年より表示が義務化されている
遺伝子組換え作物に対して慎重な立場の人々
他の生物に由来する遺伝子を持つ作物が環境に悪影響を与える可能性があり、アレルギー反応を引き起こす分子であるアレルゲンを新たに食物に持ち込むなどの人の健康を脅かすものであると危惧している 主な懸念事項は、遺伝子組換え作物に導入された遺伝子が、畑の周りに生えている近縁な植物に移行する可能性が否定できないこと
一般に芝生や牧草は花粉の散布を通して近縁の野草と遺伝子を交換していることが明らかになっている
農薬、病害、害虫などに耐性を付与する遺伝子をもつ作物の花粉が野生の植物に受粉すると、そこから防除が困難な「スーパー雑草」が生じる恐れがある
一方では、自然交雑が起こらないように作物の遺伝子を設計するなどのさまざまな手段により、このような耐性遺伝子の拡散を防ぐことも可能
遺伝子組換え作物が広く用いられるようになると、自然界の遺伝的多様性が減少し、そのため急激な環境変化や新型の病気の流行などの事態が発生したときに壊滅的な打撃を受けやすくなることが懸念されている
全米科学アカデミーは、遺伝子組換え作物が特定の健康被害や環境汚染をもたらす科学的な根拠はないという見解を発表した
この研究を遂行した研究者は、予期しない環境への影響の有無を観察するため長期間にわたる厳密な監視活動を行うことも推奨している
輸出国は積み荷の食料に含まれる遺伝子組換え作物について、分別確認しておくことと、この積み荷により健康被害や環境汚染が起こる可能性について輸入国側が判断することを認めることが求められている
カルタヘナ議定書は日本も締結・批准し、2004年より発効している
現代では、世界各国の政府および監督官庁が、農業、工業、医療の分野で新たに製品や手法の安全性を確保しつつ、バイオテクノロジーをどのように促進していくべきかという問題に取り組んでいる
米国では、バイオテクノロジーのすべての課題に伴う潜在的な危険性について、食品医薬品局、環境保護庁、国立衛生研究所、農務省を含む多くの監督官庁が評価判定している
DNAテクノロジーにより引き起こされる倫理的問題
DNAテクノロジーが引き起こす法的および倫理的問題の多くには明快な答えがない
ホルモンの作用は正常だが背が低めの子供をもつ親が、子どもの身長をさらに延ばしてやるためにHGH治療を求めることは許されるか もし許されないのであれば、どの子どもについて「十分に背が低い」ことを理由にホルモン治療を許可しないのか、誰が決定すればよいのだろうか
しかし、ヒトについては、このような遺伝子操作はきわめて重大な倫理的問題を引き起こすため禁止されている
我々は子どもやその子孫の遺伝的欠陥を除去することを試みるべきだろうか
我々はこのような方法で進化に干渉してもよいのだろうか
長期的視点では望まれない型の遺伝子を生物集団の遺伝子プールから除去することは逆効果になる可能性がある 遺伝的な多様性は、生物種が時間経過に伴う環境条件の変化に対応するために必要な要素である
ある条件下では有利となることもありうる
遺伝的な解析技術の進歩はプライバシーの問題も引き起こす
もし、すべての人々について誕生時にDNA鑑定データを揃えておくことができれば、DNAを採取できるサンプルを全く残さずに暴力的な犯行を行うことは事実上不可能
社会の一員としての我々は、自分たちの遺伝子のプライバシーを犠牲にする覚悟はあるだろうか
ヒトの個人的な遺伝子構造に関する情報が利用可能になったとしても、倫理学者はこの情報を入手することが常に有益かどうか疑問を呈している
たとえば、健康な人が自分の唾液のサンプルを郵送することにより、将来パーキンソン病やクローン病などの様々な病気を発病する危険性をDNA鑑定により判定してくれるキットがある パーキンソン病は現在のところ治療の手立てがないので、発病の危険性を知ったところで利益もなく、いたずらに混乱と恐れを招くだけだという意見もある
しかし、乳癌の危険性を判定するテストなどは、病気を回避する措置をとることも可能 本当に有益なテストをどうやって見分ければよいのだろうか
病気に関連する遺伝子に関する情報が悪用される危険性もある
差別と無実の罪を着せられる可能性が問題となっている
あなたが雇用主であれば、就職希望者が統合失調症になる危険性が高いかどうか知りたいと思うだろう 保険会社は加入希望者に対して病気の原因となる遺伝子によって選別する権利があるのだろうか
修飾のため、保健に入るためにDNA鑑定を受けることを強制されることにもなりかねない 自分の遺伝情報をこのような差別的な目的で使用されることをどうやって防ぐことができるだろうか
さらに広範な倫理的問題は、新たな生物の進化という自然の力を行使することに対してどのように感じるか
生物の遺伝子を改造し、新たな生物を想像する権利が我々にあるのだろうか
遺伝子工学が人類や環境にもたらす利益も考慮する必要がある
土壌、水、大気を汚染する恐れのある産業廃棄物や汚染物質を浄化する能力を細菌に付与する試み